家畜ふん堆肥の肥料成分量平均値

従来使われてきた作物残さを原料にした堆肥(稲わら堆肥等)に比べて、家畜ふん堆肥には肥料成分が多く含まれています。近年、畜産農家では堆肥の野積みが禁止されました。そのため、肥料成分量は更に増える傾向にあります。

家畜ふん堆肥の肥料成分量度数分布

また、家畜ふん堆肥の原料は様々なので、含まれている肥料成分量も一定ではありません。従って、堆肥に含まれる肥料成分を見越して化学肥料を減肥するためには、個々の堆肥について肥料成分量を把握する必要があります。そのため、販売されている堆肥では窒素、リン酸、カリの全量が表示されています。ただし窒素については、堆肥に含まれる窒素のうち一部分しか作物は利用できません。また、窒素については効き方のパターンが堆肥によって異なります。

窒素肥料では、全量が施用直後から作物に利用される硫安のような化学肥料もありますが、徐々に作物に利用されるようになる「緩効性肥料」も製造されており、溶出のパターンや期間により、どのような作物・作型に利用すると良いか示されています。

窒素肥料の効き方のパターン

それと同じように、家畜ふん堆肥の施用直後の窒素の効き方にも、パターンがあります。(なお、これはあくまで施用直後から3ヶ月くらいまでの間の窒素の効き方のパターンです。堆肥からは、その後も少しずつ窒素が出てきます。)


※緩効性肥料についての補足(畜産関係の皆様へ)

緩効性でない窒素肥料は、硫安や尿素のような形で施用されます。そこに含まれる窒素は、土壌中ではアンモニウムイオンとして存在し、土壌の粘土粒子や有機物に吸着します。

アンモニウムイオンは、土壌中の微生物の働きにより、硝酸イオンに変化します。地温等の土壌環境にもよりますが、通常、1〜2週間でアンモニウムイオンは硝酸イオンに変化します。そして、硝酸イオンは土壌の粘土粒子や有機物に吸着しにくいため、雨水が地下に浸透する時に、一緒に地下に流れてしまいます。

作付期間が短い作物の場合あまり影響はありませんが、キャベツのような作期が比較的長く、初期よりも後期にたくさん窒素が必要な作物の場合、作付け前に硫安を入れても作物に利用されずに流れてしまう窒素が多く、後期に必要な窒素をまかなうための追肥が必要になります。肥料の利用効率、手間からはあまり良いとはいえません。そのため、肥料から窒素成分が徐々に滲み出してくるような肥料、つまり、初期にはあまり窒素が効かず、後期になって効くような肥料を製造し、効率を上げ手間を減らしています。そのような肥料を肥効調節型肥料と呼びます。作物によって窒素吸収パターンは違っているので、このパターンの肥効調節型肥料はどの作物に使うといった情報が明記されています。

そのため、緩効性肥料と同じように、家畜ふん堆肥にも、作物・作型に「向き、不向き」があります。

良い使い方、悪い使い方の例

放物線型の緩効性肥料に似たパターンの「初期に増える」タイプの家畜ふん堆肥をブロッコリの基肥に利用した場合は、化学肥料と同じように育ちます。しかし、シグモイド型の緩効性肥料に似たパターンの「後から増える」タイプのものをコマツナの基肥に利用すると、生育は良くありません。でも、シグモイド型80日タイプの被覆尿素を、コマツナに使う人はいませんよね。堆肥の性質を理解せずに使うと、このような「失敗」をしてしまいます。

しかし、家畜ふん堆肥の「見た目」からは、どのような性質かは分かりません。

分析方法フローチャート

そのため、農林水産省の実用技術開発事業・課題番号18053では、その性質を把握するための分析方法を開発しました。簡易分析キット等を使うことにより、高価な分析機器を持っていない普及センターでも、分析することができます。また、リン酸、カリの簡易分析方法も開発しました。

分析結果を元に施肥設計を行ない、農家の圃場でキャベツを栽培した例を示します。使った堆肥は「変化しない」タイプの牛ふん堆肥、「後から増える」タイプの豚ぷん堆肥2種類(窒素の量は違います)、すぐに効く窒素をほとんど含まない「雨ざらしにした牛ふん堆肥」です。

家畜ふん堆肥の肥料成分を考慮した施肥設計

そして、施用直後から1ヶ月の間に堆肥から出てくる速効性の窒素を基肥窒素から、1ヶ月から3ヶ月の間に出てくる緩効性の窒素を追肥窒素から減肥しています。そのため、使っている堆肥により、化学肥料窒素の量が違っています。なお、この試験ではリン酸、カリが過剰になる場合もありますが、それは気にせず、不足する場合のみ化学肥料で補っています。

栽培試験の結果、キャベツの収量は、化学肥料のみを使った慣行栽培とほぼ同じでした。一方、堆肥の散布費用を含めた資材費は、堆肥からの肥料成分を見越して化学肥料を減らすと、低くなります。つまり、堆肥からの肥料供給量をきちんと把握して化学肥料と併用すれば、収量を落とさずに生産コストを下げることができます。

収量とコスト

しかし、一般に販売されている化成肥料では成分量は決まっており、家畜ふん堆肥に合わせて調節するのは難しいのが現実です。無理のない範囲内で減肥をするとともに、「このような肥料成分量の家畜ふん堆肥を併用しているので、化成肥料の成分割合をもう少し見直して欲しい」という要望を伝えてゆくことも大切だと考えています。